Claris FileMaker 2025 – カスタムAppでAIをカスタマイズする「ファインチューニング」機能とは?

2025年07月09日 10:00 AM

Claris FileMaker 2025


カスタムAppでAIをカスタマイズする「ファインチューニング」機能とは?

近年、大規模言語モデル(LLM)の進化は目覚ましく、ビジネスにおけるAI活用への期待が高まっています。しかし、一般的なLLMは公開情報で学習されており、特定の企業の内部情報や、専門的な業務に特化した振る舞いには対応できないという課題がありました。このような状況で、カスタムAppでのAI活用を劇的に加速させる新機能が、Claris FileMaker Pro 2025 に搭載されました。それが「RAG(検索拡張生成)」と「ファインチューニング」です。

このブログでは、Claris FileMaker Pro 2025 で利用可能になった「ファインチューニング」機能について、その概要から具体的な活用方法、そして注意点までを詳しくご紹介します。

ファインチューニングとは? LLMの「個性を育てる」技術

ファインチューニングとは、すでに学習済みのLLMに対して、手元にある特定のデータセットを用いてモデルのパラメータを再学習・調整し、特定のタスクに適応させるアプローチを指します。

つまり、自分が持っているデータを使ってもう一度学習させ、やりたいことに合うようにLLMを調整することですね。

なぜファインチューニングが必要なのか? その目的とメリット

ファインチューニングを行う主な目的はいくつかあります。

  • モデルに特定の振る舞いをさせたい場合:これまではプロンプトでモデルの振る舞いを制御していましたが、ファインチューニングを使うと、モデル自体が追加学習させたデータに従って出力されるようになります。
  • 特定のタスクの精度向上:出力する文章を短くする、要約や翻訳などの特定のタスクの精度を向上させたい場合にも使用できます。
  • 安定した出力の実現:特定のサービスで望ましい安定した出力を得たいといった用途でも利用できます。例えば、医療現場での診断補助や、法律相談の自動応答などが挙げられます。

これにより、カスタムAppに特化した言語スタイルやフォーマットの学習に優れ、一貫性のある対応を提供できるようになります。

Claris FileMaker 2025 におけるファインチューニング機能

Claris FileMaker 2025 では、ファインチューニングをカスタムApp内で効率的に実行するための専用スクリプトステップが追加されました。

1. 「モデルをファインチューニング」スクリプトステップ

このスクリプトステップは、LLMモデルをカスタムデータセットでファインチューニングするために使用されます。

  • サポートモデル:OpenAIまたはオープンソースモデルをサポートしています。
  • アカウント名:「AIアカウント設定」スクリプトステップで設定したアカウント名を指定します。「モデルをファインチューニング」スクリプトステップの前に、「AIアカウント設定」スクリプトステップでアカウント名を定義しておく必要があります。
  • ベースモデル:ファインチューニングのベースとなるモデルを指定します。
  • トレーニングデータ
    • テーブル:データベースのデータテーブルを指定できます。
    • ファイル:JSONL形式のトレーニングファイルを指定できます。カスタムAppのデータをトレーニングファイル形式で書き出すために、「レコードをJSONLとして保存」スクリプトステップ(後述)を使うことを推奨します。
  • ファインチューンパラメータ:オプションパラメータをJSONオブジェクト形式で指定できます。OpenAIのファインチューニングを使用した場合、Suffixを指定しておくと、ファインチューニング済のモデルを探す際に、便利です。

2. レコードをJSONLとして保存

このスクリプトステップは、LLMモデルのファインチューニング用のJSONLファイルとしてレコードを保存するために使用されます。

  • ファインチューニングの形式
    • Off:フィールドを選択してデータソースを標準的なJSONL形式でエクスポートします。
    • On:計算されたテキストで構成されるデータソースをエクスポートします。この場合、システムプロンプトユーザープロンプトアシスタントプロンプトを指定して、JSONLの各行を構成することができます。
  • 出力ファイルを指定:JSONL形式のトレーニングファイルの保存先とファイル名を指定します。
  • JSONLファイル形式の例:JSONLとは、「1行ごとに1つのJSONオブジェクトを書いたテキスト形式のファイル」のことです。ファインチューニングに使用されるJSONLファイルは、以下の形式が期待されます。
     1行ごとのJSONオブジェクトの例:
     {"messages": [
          {"role": "system", "content": "System message"},
          {"role": "user", "content": "User message"},
          {"role": "assistant", "content": "Assistant response"}
     ]}

この機能により、FileMakerのカスタムApp内で直接トレーニングデータをJSONL形式で準備することが可能になり、モデル調整までのプロセスを効率化できます。

FileMakerでのファインチューニング機能利用時の注意点

  • データ量と品質の要件:ファインチューニングには十分な量と品質のカスタムデータが必要であり、適切なデータセットの準備には時間と労力がかかります。
  • ファインチューニングでは、誤った入出力が含まれるトレーニングデータを使用しても、モデルの回答精度が、正しいトレーニングデータを使用した場合と同等だった報告があります。これは、モデルが指示内容よりも出力形式など表面的なパターンを学習している可能性を示唆します。「Do Models Really Learn to FollowInstructions?」(arXivリンク:https://arxiv.org/pdf/2305.11383

まとめ

Claris FileMaker 2025 に搭載されたファインチューニング機能は、AIに対するカスタムAppのデータ活用の可能性を大きく広げ、ビジネスプロセスの自動化と精度を向上させる有用な機能でした。

次のブログ「ファインチューニングを使ってみた」では、実際に使ってみたところを報告したいと思います。

この機能を用いることで、特定のタスクやドメインに対してモデルのパフォーマンスを向上させ、より専門的な応答を実現できます。特に、カスタムAppに特化した言語スタイルやフォーマットの学習に優れており、ビジネス固有の表現や応答パターンを学習させれば、まさに「業務特化型AI」を構築することが可能になります。

ぜひ Claris FileMaker 2025 のファインチューニング機能を活用し、独自のAIソリューションを構築してみてください。