ASPって魔法の言葉? 2004年4月号
 

ある大名が食事中、家来に
「この菜っ葉は昨日の菜っ葉より味が落ちるのはどうしてだ?」
と聞いたところ、家来は
「昨日の菜は農家から仕入れたもの、本日の菜は屋敷内の畑で取れたもの。」
であると答えた。大名は
「屋敷の畑は何故まずい?」。
「百姓は『下肥』を畑にまき、当方は『にしん』をまいております。」
「それではその『下肥』をまくと菜はおいしくなるのか?」
「御意。」
「苦しゅうない。下肥を少しこれにかけてまいれ。」
これは落語の大名話での枕でよく使われるが、「下肥」の意味を知らないことがおかしなことになってしまうのである。ITの業界でも似たようなことがあるので今回はそのお話をしよう。

ある保険代理店の社長には、最近とても悩んでいることがあった。それはその会社のお客様の保険の加入情報がタイムリーに分からないということであった。実際あるお客様がどの会社のどんな保険に加入しているか把握するまでに30分はかかっていたのである。
その理由はこうだ。その会社は数多くの保険会社の代理店になっており、そこが強みとなり急速に成長してきた。保険というとはじめに加入する会社をある程度絞ってから、それからどんな保険に入ろうかと検討するものである。ところがこの会社は損保、生保それぞれ40社以上の代理店となっており、それこそ「保険のデパート」みたいなものであったのだ。したがって保険会社にはこだわらず、保険商品自体が選択基準のお客様には好評であり、業績を伸ばしてきたのであった。
しかしそこで問題が出てきた。冒頭で述べたようにお客様の加入情報を把握するのにとっても時間がかかってしまうことであり、業績が伸びれば伸びるほどその時間はどんどんかかってきたのである。
そうなると営業現場ではお客様の問い合わせにスピーディーに対応できないばかりでなく、既に加入済みの保険を再度案内してしまう、というような事態になってきたのであった。

これには大きく分けて二つの理由がある。まずあらゆる保険会社の、それも生保・損保を横断して把握できるデーターベースが存在しないことと、その構築をこの会社は先送りにしてきたこと。もうひとつは保険会社によって契約データの提供形式やフォーマットが異なっており、その統合にはかなりのパワーがかかり、何度か話し合いは行われたのだが、そのまま先送りになってきたこと。
順調に契約数は増えていくにつれ、社長の悩みはどんどん大きくなっていくのであった。そんなある日、知人の紹介であるソフトウェアベンダーの部長と会うことになった。その部長の案内するソフトは「すべての保険データを一括管理でき、かつASPの利用により保険会社からタイムリーにデータ取得が出来るので、いつも一番新しいデータが閲覧できる。」という内容であった。社長は「待ってました」とばかりその話しを聞くや否やすぐ、役員や部長を社長室に呼んで「このASPを導入しなさい。それも今すぐに導入しなさい。」とおっしゃったのであった。

たしかに話を聞く限りはその会社の現在の悩みをすべて解決できるような話しであるが、そこは営業経験が長いだけにあって「そんなうまい話はない」という直感が全員思ったという。しかしその後何度が会議を開き、そのベンダーから話を聞いてもまた全員が自称「IT音痴」を標榜しているだけあってITの専門用語が出てくると全く何を言っているのか分からないのだが、効果だけ聞いてもなんらおかしいところは無い。しかしその直感だけがその話を進めることをためらう唯一の理由であった。社長からは毎日「ASPを入れたか?」の催促がやってくるが、まさか「なんとなく虫が騒ぐんです。」なんて返事も出来ないので「もごもご・・・」。
そんなやり取りが1ヶ月も続いたころ、社長と取締役双方から同時にご相談をいただいたのであった。

まず現在の業務分析をすることで問題点と解決すべき優先順位をたててみた。そうしてそのASPを導入した場合を想定して、その問題がどれだけ解決できるのかを調べることにした。その結果ただ単にそのASPを導入した場合、逆に業務が複雑になる部分も出てきて今回の「タイムリーな顧客情報の把握」というゴールには程遠いことが判明したのである。
さてそこでもうひとつ問題が出てきた。「ASPを導入すれば問題はすべて解決するのだ!」と思っている社長にどう説明するか。である。そこで図1を用意した。
社長の目指しているゴールを100%として、このASPを導入した場合の到達点を明記したのだ。更にASPの活用、その他のDBの利用した場合の「到達点、コスト、期間」を表記したA4一枚を作成したのである。

そうして現在では「75%コース」を目指して現在では会社全体がその目標に向かって取り組んでいる。