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「マニュアル好きの日本人」という言葉を聞いたことがある。この言葉は「言われた事はきちんとやるが、それ以上は出来ない。」というあまり有難くない意味と思うが、今回はその「マニュアル」についてお話してみたいと思う。
そもそも「マニュアル」は『その操作にしたがってやれば間違いありません』というものだと思っていた。「思っていた」と過去形なのはこのIT業界に入るまでは「マニュアル イコール 絶対間違いのないもの、矛盾の無いもの」というように考えていたし、親や先生にもそう教えられてきた。(?)
しかし10年前にこの業界で生きていくと、この不文律が全く通用しないことが分かってきたのであった。
例えばあるマシンのトラブルを調査するソフトのマニュアルの話。業界初心者である私はそのソフトのマニュアルを済から隅まで読んで、少しでも標準レベルに追いつこうと必死だった。そうして最後のページにたどりつき私は思わずそのマニュアルを落としそうになったのであった。
「このソフトはマシンにトラブルが発生することが確認されています。したがって・・・」
と、なんともまあ矛盾したことが書いてあったのである。「トラブルを調査するソフトがトラブルを起こしてどうするんじゃぁ!」と思わず叫びそうになった。
こんなことはまだまだ序の口であった。この業界の「マニュアル」には摩訶不思議なことがまだまだあるのであった。
「ワープロソフトのマニュアル作ってくれる?」と電話があったのはその事件から半年ぐらいたったころである。いちおうIT業界の不思議なことは相変わらず、小さなインシデントは日々あったが、どうにかこうにか慣れてきた時期でもあった。
有名出版社に勤める知り合いからの仕事の依頼であった。当時シェアで1,2位を占めるワープロソフトの初心者向けのマニュアルを作って欲しい、ただし納期は1ヶ月という内容。書店に並んでいる数多くのマニュアル、特に初心者向けのマニュアルは分かりづらい物が多い、何とかできないのか、と日頃から少し生意気な気持ちを抱いていた私は、ぜひやってみたい仕事であった。しかし納期が1ヶ月はとても短いので、何とかならないかとお願いしたあとである。
「大丈夫でしょ。こちらで現在出版されているマニュアルを10冊ほど用意しますから、それを元に、著作権に触れないように(ここは声が小さかった)部分部分を選んでうまくまとめれば良いんですよ。まさかイチから書こうなんて考えているのではないでしょね。そんなはずは無いよね。あははは。」
なにが「あははは」だ。もちろんこの仕事はお断りをした。
メンバーから電話が入った。「うまくネットワークがつながらないんです。」時計を見ると終了予定時刻を3時間も過ぎている。どうせまたケアレスミスがあるんだろうな、あれほどきちんとやれと言っていたのに。
「ちゃんとマニュアル見た?駄目だよ、どうせ見落としかなんかあるんじゃないの?」
「違うんです。ルーターのパッケージと、マニュアルと、サポートと全部言っていることが違うんです。」
とりあえずお客様に事情をご説明しお詫びして、いったん彼を引き上げさせた。帰ってきてそれらを見てみると確かに彼の言うとおりだった。
パッケージにはある機能が「●●機能搭載!」と、それも表に大きく書いてある。マニュアルのその項目を見るとその章の最後の方に「※ただし●●機能は、環境によっては使えない場合があります。」と小さく書かれていた。更に「この機能は充分な検証が行われていないので●●機能のご利用はお勧めしません。」
最後にサポートの言うことは「●●機能は現在ご利用できる環境が見つかっていません。したがってご利用は控えてください。」
昨日も店頭には「●●機能搭載!」が書かれたルーターが置いてあった。
(●●機能によって結構そのルーターは、他のルーターより割高だが、その機能が搭載されていることによって結構売れているのだ。お客様もその機能が必要でわざわざご自身で購入されていた。)
10年前のソフトやパソコンには、それはそれはとても分厚いマニュアルが何冊もあった。「はじめにお読みください」とか「困った時は?」とか、挙句の果ては「マニュアル・マニュアル(どのマニュアルに何が書いてあるか、という説明がしてあるマニュアル)」まで笑えないものまであった。そしてほとんど開かれること無く資源ごみとしてその一生を終えていた。
しかし最近では電子マニュアル(いわゆるCD-ROM等に保管されているPDFファイル)として保管されていて、紙の分厚いマニュアル自体は無くなった。おそらくメーカーとしては「これであの重たいマニュアルがなくなりお客様も喜んでいるはずだ。また紙の資源も無駄にならず、またわが社の経費削減にもつながった。よしよし」なんて喜んでいたら大間違いだ。
それを全て印刷しようとしていた方がいた。そのお客様いわく「だってパソコンが故障したら見られないでしょ。」
こうして日本人のマニュアル好きとIT業界の思惑は複雑に絡んでいき、ますます混迷の度合いが深まっていくのであった。
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