IT業界の困ったチャン 2003年7月号
 



「絶対に止まりません!」彼は鼻息荒くこう叫んだのであった。わたしは「またか・・・」とため息をつき、今後の彼らとのやり取りを想像すると、ぐったりとした気持ちになっていくのであった。


事の始まりはこうである。弊社はお客様のシステム担当者代行を生業としている。あるお客様から「メールサーバー構築を考えているのだが、要件定義から選定、その後の運用までを手伝って欲しい。」というご要望があった。 そもそもそのお客様は、既存のレンタルサーバーを利用し、メールのやり取りを行っていた。しかし年に数回サーバーのエラーか保守だかは不明だが、数時間停止してしまうことがあったらしい。そこで「絶対停止しないサーバー」の選定を始めたのである。 業務の性格上、ほんの数時間でも停止した場合お客様に大損害を与えかねないという。社長は笑いながら「サーバーが止まった場合、若いもんが指を詰めるぐらいの騒ぎではないんだ・・・。うふふ。」なんて冗談をおっしゃっていたが、その笑った目の奥には不気味な光が見えたのを私は見逃さなかった。

こうして選定作業を始めたのだが、まず社長に「絶対止まらないサーバー」の実現はたとえペンタゴンの力をもってしても無理であり、「止まった時に出来る限り早く復旧する(仕組みを持った)サーバー」を探すことが現実的である、ということを納得していただくのに少し時間がかかった。 さてベンダーをいくつか選定し「出来るだけ止まらないメールサーバー、止まった時にも出来るだけ早く・簡単に復旧できるメールサーバー」という要件を出し、数社にプレゼンをしてもらうことになった。当方の出席者は社長、情報担当役員の方2名、システム担当責任者、そして私の5名。1時間ごとに5社のプレゼンを受けることになったのだ。
 
一番目は小学生でも知っているとある大手電機メーカーの情報部門。そこはまず勝負をするなら同じ人数で、とでも思ったのかどうかは知らないが、部長と営業課長と営業と技術課長と技術担当の5名でやってきた。 営業担当が「どさっと」(いやおおげさでなく)電話帳ぐらいある分厚い企画書を私たちに配り説明を始めた。(おいおいまてよ、3日かかっても終わらないぞ!)しかし彼の説明は10分ほどで終わり拍子抜けしたが、気を取り直していくつか質問をぶつけてみた。 パッケージとしてはすばらしいが、お客様の状況にはそぐわない部分がいくつかあるので、その改良は可能か?である。しかしことごとく「それはそちらが合わせるべきであり、当方に改良する必要はない」というような返事であった。「南向きに窓が一切無いんだけど・・・」と聞いても「それはうちの仕様であり、我慢しなさい。」としか聞こえなかった。導入実績は国内で百社以上あるというのだが、みんな北向きの窓で我慢しているのかな?

次に登場したのが大手コンピューターメーカーである。ここはたった一人でやってきて「うんうん、男らしいぞ」なんてくだらないことに感心していたのだが、10ページほどの企画書を一気に読み終わっておしまい。そうしていくつか質問をすると「それは戻ってエンジニアと相談します。」の一点張り。何を質問しても「戻って」「戻って」。「今日の朝ごはんは何?」と聞いても「戻って」と言ったら、逆にこいつはすごいなー、なんて心の中で余計なことを考えていた。

3社目の大手ベンダーは部長・営業担当・技術担当の3人でやって来た。特にその技術君の名刺には資格がびっしりと書き込まれており、「お勉強は出来るんだねー」「けどねー、挨拶の時はせめて相手の顔を見ようよ。それともあたしの頭に何かついている?」と言いたくなる目線が少し違っている彼であった。 プレゼンは順調に終わり一段落ついたところで、いくつかの質問をこちらから出した。その流れの中で「絶対に止まらない」ということは無いのじゃないですか?と社長が言った時である。突然かの技術君は「ぶるぶる」っと震えて(いや、ホントそんな感じでした)顔が見る間に赤くなり「止まりません!」と叫んだのであった。 一瞬会議室内には重たい空気が流れたが、社長がにこやかに「それだけ自身のあるのは良いね。ところでもう少し詳しく説明してくれないかな?」 さすが社長である。一国の主である。私とは大違い。(わたしも小さな掘っ立て小屋の主です)しかし彼はこう言い放ったのだ。 「マイクロソフトの技術をなめないでください。僕が5年間勉強して身につけた内容を、そんな簡単には説明できません。」 さすがにまずいと思ったのか部長さんがその後は平謝りでその場は納まったのだが、帰り際の彼の顔を見ていると、彼だけはあきらかに納まってはいなかった。

「仕様です」君も「戻って」君も「絶対」君もこのIT業界だけの話ではないと思うが、比較的生息数は多いように思うし、また彼らが生き残っていく確率も多いと思う。こんな彼らが大手企業の看板を背負ってのこのこと現れるのは、果たしてそれらの企業だけの責任なのだろうか。 (件のお客様は4社目のとっても親切で丁寧な中堅のベンダーさんに決定して、今は順調に稼動中である。