|
総務部長が会社に出社すると、ある新聞社から今朝電話があったというメモがある。記者の名前は全く聞き覚えが無い。とりあえずメモにある電話番号に電話してみるといきなり「御社の顧客情報、5万人分のデータが漏洩したのですが、いろいろとお聞きしたいことがあって・・・。」総務部長の頭は真っ白になった。
詳しく話を聞くと、インターネットの掲示板で顧客情報が漏洩していることが書かれているという。「まずは事実関係を確認して・・・」と話もそこそこに電話を切り、すぐに教えられたURLにアクセスをしてみた。
そうするとある有名な掲示板に確かに会社のホームページのアドレスが書かれており、そこをクリックすると、確かに顧客情報が書かれたファイルがダウンロードできたのであった。
すぐさま役員以下関係者が集まって、今後の対策についての相談が始まった。しかし悪いことは重なるもので、あいにく社長は海外出張中で連絡がなかなか取れない。
そうこうしているうちに先ほどの新聞記者からの電話が入り、本日の夕刊には流出の記事が出るということが分かった。
なにせ会社にとっては初めての出来事であり、誰もどう対応していいのか分からないので、議論はなかなか進まなかった。どうしても「犯人探し」に意見が傾いたり、「たいしたことはないのではないか。」という意見まで出るようになり、収拾がつかなくなっているところ、ようやっと社長から連絡が入った。社長は電話に出るなり「まずは情報が漏洩したお客様のことを考えなさい。出来るだけ早くお一人お一人にお詫びをお伝えすることと、誠意を持って対応することを考えなさい。」
その一言で会社の混乱は収拾し、広報担当、対策担当、お客様窓口担当等、各セクションがおのおの機能をはじめ、社長が帰国するまでは常務が責任者として対応することになった。
そもそも顧客情報が漏洩した理由は簡単なことだった。ある社員がたまたま家で仕事をしようと、顧客ファイルをフロッピーに入れようとしたのだが、データ量が多くて入らない。そこで会社のホームページサーバー上にデータを一時的に置いて、家でデータを受け取るとしようとしただけなのだ。家でデータをとった後、消去せずそのままであったらしい。
ここで登場してくるのが掲示板等で「インターネット上で簡単に閲覧できる顧客情報」を探している輩である。彼らは一日中そんなデータを集めて、掲示板で広報して、ご丁寧にマスコミにその情報を知らせているのだ。
彼らはおそらく「人の痛みなど知ったことか」という人種で「道端に落ちている顧客情報を知らせて何が悪い」とか「ITのゆがんだ状態を是正するのだ!」とか、くだらんことを主張するのである。
また情報を探すことは何も難しいプログラムを使う必要はないのである。
たとえば有名な検索エンジンでは画像を探すことが出来る。「hiroko.jpg」と検索しただけで、インターネット上に存在するその名のついた画像(おそらくそのほとんどは全世界のhirokoさん)を、それも画像つきで検索できるのだ。これはお父さんが家族のホームページを作り、どうせ内輪でしか見ないから、とデジカメでとった家族の写真に「hiroko.gif」などとつけてホームページ上で載せたら簡単に全世界の人に公開できることを意味する。
そんな危険性と隣りあわせでITを利用している企業は多いのである。その危険性を知っていながらITを活用するのと、知らないとでは大違いである。
迅速で誠意のある対応が功を奏して、それによる顧客の被害は起きていないし、また大きなクレームが入ってきたこともなかった。しかし一度漏洩した(であろう)情報はいつまでもデジタルの世界に存在しつづけるので、もし被害が起きてもすぐに対応できる体制はいつでも整えてある。
|