「CRM」導入で会社の未来は??? 2002年2月号
 

「ここには顧客の情報をストックして、常に利用できるようにする。」社長はホワイトボードに大きく赤丸をつけた。わたしは「また初めから説明しなければならないな。」と少しため息をついた。

情報システムを構築したいので話を聞いて欲しい、と連絡があったのでお伺いした。大きな会議室に通され、役員の方々から事業部長まで10人以上が揃っていて、少しびっくりした。社長はいきなり「わが社は今後IT技術を使って問題解決型の全社活動を行っていく。」と宣言をして、ホワイトボードにせっせと図を書き始めた。よくよく見てみるとCRMの全体概念図である。それを30分にわたって説明を受け、ようやっと一息ついたところ「有城さん、どうかね?」ときた。
いきなりだったのではじめは戸惑ったが、まず心を落ち着け、社長以外の方々はこのお話は初めてかどうかを尋ねたところ、案の定はじめて聞く話であった。
そこで社長に(社長の顔を潰さないように苦労したんですよ、これでも)どうしてこれを導入するかお聞きした。
社長のお答えは「顧客満足度の増大」「戦略的な経営への脱却」「SFAやCTIの導入」「他社もやっているので」等、なんともまあ曖昧な答えであった。
おそらく本音のところは「他社もやっているので」というところか。
(だいぶたってから社長から「あれはライバル会社でありまた古くからの友人でもある社長からの全くの受け売りだった。」と教えていただいた。)

CRM[カスタマー・リレーションシップ・マネジメント]とは一時期、企業へのIT導入の呪文のように唱えられた言葉である。しかしその導入にはある調査によると6割は「うまくいっていない」と答えていると言う。
そもそもCRMの明確な定義を私は知らない。いろいろな文章がいろいろな事を言っているので、私はそんなもの端から信用しない。SFAやCTIなのどのアプリケーションを指す事もあれば、企業の経営戦略全体をさすこともあるらしい。ここ数年の雑誌や本を片っ端からめくってみたが、「これだ!」という説明に出会わなかった。とにかく私の頭が悪いからかCRMの説明が何種類もあるのである。
一方で面白い事に気がついた。2-3年前の企業システム担当者向けの記事は「CRMはこうすれば成功!」とか「CRM導入成功企業事例!」とかまるで「CRM」を魔法の言葉のように使っている記事が目に付いた。しかし最近では「CRMの失敗事例」とか「なぜCRMはうまくいかないか」とかまるで手のひらを返したような記事が目に付く。

ここまで露骨ではないが、ERPをはじめとして、最近ではブロードバンド。必ずはじめは「ばら色の」記事。そうしてしばらくすると「導入の失敗事例」。結局それらの言葉に騙されると、これらの記事のとおりに「なんとなくまわりもやっているから」はじめてみたが、「目的が明確」でないので、なんとなく「うまくいかなかった」ということで終わるのかもしれない。(たまに「役員の理解不足」なんかもおかずとして付く)

冒頭のお客様はなんとか役員の方々と一緒に、社長を説得して(熱を冷ましていただいて)、初めから「そのお客様に本当に必要な業務改革とその目的、そしてそれを活用出来るIT技術」を充分話し合った。そこで出てきたのは「基本的な業務情報がスムーズに流れる事」であった。情報が流れる仕組みを簡素化するプロジェクトを発足させ、全社でのコンセンサスを得た。その後にグループウェアの導入をして、またその使い方・活用方法に時間をかけて教育した。
その結果、今ではいろいろな効果が見えてきている。業績も伸びているし、顧客満足度は上昇し、新商品開発のペースも上がり、従業員の方々のグループウェアに対する評価も上々である。
あのとき「CRM」に流されなくてよかった、と先日も社長と一緒に大笑いをした。